「自筆で遺言書を書く方法と、公正証書遺言のどちらを選ぶべきか」「費用をかけてまで公証役場で作成する必要があるのか」と迷われる方もいらっしゃるかと思います。
公正証書遺言は、公証人が作成し、原本が公証役場等で保管される遺言です。方式面の確実性や保管面に強みがある一方、証人2名や公証人手数料が必要になります。この記事では、公正証書遺言が向くケース、メリット・注意点、費用の考え方、自筆証書遺言との違いを解説します。
公正証書遺言が向いている6つのケース
- 子がいない夫婦:配偶者以外の相続人との遺産分割をできるだけ避け、配偶者の生活を守りたい場合
- 前婚の子・認知した子などがいる場合:相続人が複数の家族関係にまたがり、分け方を明確にしておきたい場合
- 内縁の配偶者、子の配偶者、友人・団体などへ財産を託したい場合:法定相続人ではない方へ遺贈したい場合
- 不動産・預貯金・自社株など、財産が複数ある場合:財産の特定や承継先を丁寧に整理したい場合
- 事業承継を考えている場合:事業用資産や株式を誰に承継させるかを明確にしたい場合
- 自宅保管や自筆での作成に不安がある場合:紛失・未発見・方式不備のリスクを抑えたい場合
もっとも、遺言があれば全ての相続トラブルを防げるわけではありません。子・父母・配偶者には遺留分があり、遺言の内容によっては遺留分侵害額請求が問題になることがあります。誰に何を承継させるかを決める段階で、相続人の範囲と遺留分を確認することが大切です。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、遺言者が公証人と証人2名の前で遺言内容を口頭で伝え、公証人がこれを文章にまとめて作成する遺言です。遺言者と証人が内容を確認し、署名等をして完成します。遺言の作成は代理人だけで行うことはできません。
原本は公証役場等で保管されます。公証実務では、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年、又は遺言者の生後170年間保存する取扱いです。
自筆証書遺言・法務局保管制度との違い
| 項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言(法務局保管) |
|---|---|---|
| 作成方法 | 公証人が作成。証人2名が必要です。 | 本文・日付・氏名は本人が自書します。財産目録には例外があります。 |
| 方式面の確認 | 公証人との事前打合せ・作成手続を経て作成します。 | 保管申請時に、法務局が方式面の外形的な確認を行います。 |
| 保管 | 原本が公証役場等で保管されます。 | 原本と画像データを法務局が保管します。 |
| 検認 | 不要です。 | 法務局保管を利用した場合は不要です。 |
| 主な費用 | 公証人手数料、証人謝礼、必要書類の取得費用などがかかります。 | 保管申請は遺言書1通につき3,900円です。別途、書類取得費用等がかかります。 |
自筆証書遺言に法務局保管制度を組み合わせることでも、紛失・改ざん・検認といった保管面の課題を抑えられます。一方、財産や家族関係が複雑な場合、遺言内容の整理や証人の確保まで含めて準備したい場合には、公正証書遺言が有力な選択肢になります。
自筆証書遺言の要件と法務局保管制度については、自筆証書遺言の書き方、自筆証書遺言書保管制度で詳しく解説しています。


公正証書遺言の主なメリット
検認が不要です
公正証書遺言は、遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。相続開始後、相続人等は遺言公正証書の謄本等を利用して、不動産の相続登記や預貯金の手続を進めます。
原本の紛失・破棄・改ざんを防ぎやすい
原本が公証役場等で保管されるため、自宅で保管する場合に比べて、紛失や一部の相続人による破棄・隠匿・改ざんのリスクを抑えられます。遺言者が亡くなった後は、相続人などの利害関係人が公証役場で遺言の有無を検索できる仕組みがあります。
遺言内容を実行しやすい形に整理できる
公正証書遺言では、公証人との手続を通じて、誰に何を承継させるかを明らかにして作成します。ただし、公証役場は個別の相続対策や税務判断を一括して保証する場ではありません。相続人関係、財産の特定、遺留分、税金、事業承継などは、事前に整理しておく必要があります。
注意点・デメリット
- 費用がかかる:公証人手数料のほか、証人謝礼、必要書類の取得費用などが必要です。
- 証人2名が必要:推定相続人、受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれません。
- 作成までに準備が必要:戸籍、財産資料、承継内容の整理、公証人との事前調整が必要です。
- 遺言内容が常に有効とは限らない:遺留分、遺言能力、財産の記載漏れなどは別途問題になり得ます。
証人の条件や選び方は、公正証書遺言の証人についてで解説しています。

費用はどのように決まる?
公正証書遺言の公証人手数料は、遺言により財産を承継する人ごとに、その人が受ける財産の価額を基準に算定し、合算します。遺言全体の財産額だけで、一律に決まるわけではありません。
| 承継する人ごとの目的価額 | 基本手数料 |
|---|---|
| 500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 49,000円 |
目的価額の合計が1億円以下の場合は、原則として遺言加算13,000円が加算されます。さらに、紙に出力する公正証書原本が3枚を超える場合の加算、正本・謄本に相当する電子データ又は書面の交付手数料、病院や自宅等へ公証人が出張する場合の日当・交通費などが必要となることがあります。証人を公証役場又は専門家へ依頼する場合の費用は依頼先に確認してください。
作成から完成までの流れ
戸籍、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金資料などで整理します。
遺留分や、先に受け取る方が亡くなった場合の扱いも検討します。
言内容を実現する人を指定するか、証人を誰に依頼するかを決めます。
資料をもとに、公証人と文案・必要書類・作成日時を調整します。
遺言者本人が、公証人と証人2名の前で内容を確認して作成します。
原本は公証役場等で保管されます。遺言者は交付を受けた書面等を適切に保管し、遺言を作成したことや遺言執行者の連絡先を、信頼できる方へ伝えておくと相続開始後の手続が進めやすくなります。
手続の詳細は、公正証書遺言の作成手続きで解説しています。

よくある質問
配偶者に全財産を相続させれば、他の相続人は何も請求できませんか?
いいえ。子・父母・配偶者には遺留分があるため、遺言の内容によっては遺留分侵害額請求がされる可能性があります。兄弟姉妹には遺留分はありません。相続人関係と財産額を踏まえて検討します。
内縁の配偶者に財産を残せますか?
内縁の配偶者は、原則として法定相続人ではありません。遺贈する旨を遺言に記載すれば、財産を託すことができます。相続人の遺留分への配慮も必要です。
作成後に内容を変更できますか?
可能です。新たな公正証書遺言を作成するほか、内容に応じて別の遺言を作成する方法があります。複数の遺言があると、内容が抵触する部分の扱いが問題になるため、変更時は既存の遺言との関係を整理してから進めましょう。
福岡市・糸島市で公正証書遺言を検討されている方へ
公正証書遺言は、単に「公証役場へ行く手続」ではありません。相続人の確認、財産の洗い出し、承継方針、遺留分、遺言執行者、証人などを事前に整理することで、将来の手続を進めやすくなります。
都留行政書士事務所では、福岡市・糸島市を中心に、遺言内容の検討、財産・相続人の整理、公証役場へ提出する資料の準備を支援しています。自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶべきか迷われている方も、お気軽にご相談ください。


